第2回未来塾講義録

講義名
第2回信州おもてなし未来塾(高野塾)
講議日時
平成26年6月23日(月)13:00~16:00
場所
Mウイング南棟 大会議室 3-2
参加者
【塾 長】高野 登氏

【アドバイザー】金井辰巳氏

講義内容

顧客の気持ちを推察した配慮行動とその進化の手法[2]

第2回「信州おもてなし未来塾」の写真

  • ◎講義【1】内容
  •  『顧客の気持ちを推察した配慮行動とその進化の手法②』
  •  講義「自分が変われば、まわりが変わる~ホスピタリティの磨き方~」
  • ◎講義【2】内容
  •  (株)仙仁温泉 岩の湯 代表取締役社長 金井 辰巳氏
  •  講義『私たちが商うのはお客様の人生を豊かにする「人生商品」である』情けと癒しの旅文化の創造

1 開会

第2回信州おもてなし未来塾開催宣言

2 講義

【1】高野塾長
「顧客の気持ちを推察した配慮行動とその進化の手法②
自分が変われば、まわりが変わる~ホスピタリティの磨き方~」

自分との約束

“決断と行動確認シート”は自分との約束である。
他人と約束する前に自分との約束がある。人との約束を守るのは当たり前だが、その前に自分自身との約束を何にも優先して守らないといけない。前回のおもてなし塾で気がついたことを、自分自身に対しての約束を“決断と行動”という形で、どれだけ守ってきたかどうか。
1年間かけ、「おもてなしのマスター」、「おもてなしの匠」になっていく。ただ私が皆さんをおもてなしの匠にすることも、ホスピタリティマスターにすることもできない。毎回、トレーニング(心の筋トレ)のヒントを共に考え、方法を伝えるだけである。トレーニングをするかしないかは「おもてなしのマスター」、「おもてなしの匠」になる気持ちがあるかないかだけである。トレーニングなくしては行動に移すことはできず、どれだけ自主トレをできるかがポイント。
前回の塾から1ヶ月間、あの時思ったこと、実際にやってみたこと、自分の行動は変わったのか。自分自身の中の意識によって、今までとは違った新しい可能性に気がついたか。その連続の中でおもてなしの匠、ホスピタリティマスターに近づいていく。色々なヒントを1ヶ月の間にどれだけ咀嚼し、行動に落とし込めたか。この延長線上に1年後の成長がある。

自分が変わるとまわりが変わる

明るく、楽しそう、顔の表情が良い。自分が変わることでまわりの人達が自分を見る目が変わり、そして違った価値観に気がつき、伝染していく。それはまわりにいて気持ちが良いからである。気持ちの良さをまわりに対して発信していきたくなる。だから自分が変わることでまわりが変わっていくようになる。
自分自身がいることで、自分の存在が、苦しんでいる人、悩んでいる人達の心の救いになることができる。これもおもてなしのものすごく大きな要素である。誰でもできるが、やっていないことの方が多い。

意志の力

できないのは意志の力が働かないからである。その時に能力がなければ、知識とスキルを身につければよい。できるようになったにも関わらず、やらないのは意志の力が働かないからである。人の役に立とう、自分が成長しようという意志の力が働かないとスイッチは入らない。
この塾の意味は仲間と一緒にやることで意志の力を自分の中に蓄えていくことにある。
当たり前のレベルを上げるため、意識的、日常的にトレーニングを行う。日常的なトレーニングとは、例えば明るい挨拶、感謝の言葉を今までよりも多く使うようにすること。それが自分のまわりに起こると引き込まれていく、これが長野県中で起きてくる。

おもてなしとは

「おもてなし」という言葉は広辞苑には載っていない。なぜならば、「おもてなし」は言葉ではない。生き方、有り様であり、自分で考えていくものである。「以って為す」という原点が見えた時、おもてなしが日本人の生き方の「ど真ん中」にあることがわかる。
何を以って何を為すために存在するのか。何が変わらないといけないのか、自身に変える力があるのか、そして命を燃やし続ける意味を考えること。
時間=命である。人の時間を大事にすることは、人の命、生き方に対し尊敬を払うこと。おもてなしの本質は「何を以って何を為すのか」である。自分の人生、生き方、働き方である。

おもてなし未来塾で何を以って何を為すのか。

おもてなしの本質を習う、見直す。人に伝えるためのリーダーシップ、リーダーとしての力と資質を身につける。「以て為す」の原点を自分の中にしっかり持ち、自分の中に入っていき、肉付けされていく。自分自身との約束、目標を決め、おもてなし、ホスピタリティの知識、スキルを身に付け、それを表現する智恵を掴み取る。そして自分のスタイルをつくる。みんな違った方向でよい。

おもてなし、ホスピタリティはコンピューターのオペレーションシステム(OS)である

自分の命を燃やしていくときのOSである。業界ごとの違ったソフトを動かすためのOSである。

マニュアルについて

仙仁温泉にはマニュアルがない。
リッツカールトンにマニュアルが存在する理由は、多民族での運営であり、バックグラウンド、知識、教養のレベル、基礎と体力を揃える為、組織を動かす為である。基礎体力を身に付ける、型を身に付けるとマニュアルを忘れ、マニュアルに捕われなくなっていく。

コミュニケーションとは

◎コミュニケーションの3つの形
1. 会話 双方の価値観は変わらない。
2. 対話 出会ったことで価値観が変わる、新しい価値観が生まれることがある。
3. 対論 議論、ディベートの中での決定事項には従わなければならない。価値観を合せていく。
うまくコミュニケーションを取るためには、どのレベルで行われているのか、3つの形の中のどのコミュニケーションが多く行われているのか、を意識し、考えていく必要がある。
コミュニケーションの難しさとは、そこに参画していくために、言葉の筋力をつけ、思考回路をまわす、言葉を紡ぎだす、考えていくことである。
コミュニケーションが取れている会社とそうでない会社は社風ですぐにわかる。地域では風土、学校では校風である。

あいさつ

コミュニケーションが取れているところは必ず、挨拶が行き届いている。お互いを尊重して声を掛け合う、一挨一拶。
相手の気持ちに自分の気持ちを添えていく時、相手の話に耳を傾けることから始める。その一番最初に形にするのが挨拶である。

ゲスト紹介

仙仁温泉はどうして人の気持ちを引き付けるのか。それは表現力であると思う。「何を以って何を為した」のか、これから「何を以って何を為していくのか」を聞く機会にしてほしい。

 
 

【2】(株)仙仁温泉 岩の湯 金井辰巳社長
『私たちが商うのはお客様の人生を豊かにする「人生商品」である』
 ~情けと癒しの旅文化の創造~

 
高野先生の自分が変われば周りも変わるという、変わるということには自身も大変に悩みました。
岩の湯には、マニュアルが無い、ホームページも無い、インターネット予約もできない。
「おもてなし」の言葉には文字通りの「おもてなし」から「サービス」「ホスピタリティ」が含まれている。そしてサービスには、「ハードでするサービス」「システムでするサービス」「マンパワーでするサービス」がある。
岩の湯ではそれを一言で「情け」と言っています。
 

時代の変化の中で

~戦略の無い個人の努力は虚しい。付加価値の無い商売は身を削るだけ~

岩の湯は、須坂市の国道406号、菅平へ上がる途中の山里の一軒宿。名所旧跡、風光明媚も何もないところ、ここでなにが出来るかが大きな悩み、苦しみでした。オイルショックの48年に「もの」から「こころ」の時代へ、有名温泉地から、自然豊かな山の温泉へ光が当たり始めた。
昭和53年、家業に入ったころ、非常に働き者の母親が病に倒れた。その時につくづく教えられたこと。
「戦略のない個人の努力は虚しい」「付加価値の無い商売は身を削るだけ」「女性が苦労する商売はダメ」
これが私の旅館人生・温泉革命のスタートとなった。 
現在部屋数18室、適正規模を考える(オフシーズンでも部屋を埋められる規模)。従業員数60名、比較的珍しい洞窟の温泉のある山の中の小さな一軒宿。
 
○さて、近年、国や県の政策で「観光」に力を入れてきてくれている。大変ありがたいこと。その一方で倒産、廃業に追い込まれ、30数年で8万3千軒が、4万6千軒と、年々減少し続けているという厳しい現実。本日のテーマである―「おもてなし」に関する問題―は、社会の変化、価値観の変化の中で「時代のニーズ・求めるもの」とサービスのあり方、考え方の問題。
 
○現代社会は、立派なもの、便利なもの、おいしいものがどこにでもある時代。感動・付加価値が生み出しにくい。
成熟社会において、マーケットは横軸ではなく、縦軸「深さと高さのマーケット」。
人の心からしか生み出せないもの、深い想い、強い願い、こだわり、祈り。
“本物”であるかどうか。世の中に必要とされる「必需品」でありうるかどうか。
本質的、根源的に私たち自身のアイデンティティが問われている。そんな時代に来ている。

“豊かさの中での貧困”にあるマーケット

○心の湖の底の宝石
少子高齢化、豊かさ、便利さは当たり前の時代、成熟社会。
“それなり”と“あたりまえ”の中で、関係性の希薄化。人と人、人とモノ、人とコトの希薄化。
何を買っても、何を食べても、どこへ行ってもそれなりと当たり前。それなりに良くて、それが当たり前になっている。故に、感動・やりがい・生きがい・幸せの実感が持ちにくい。
 
―潜在ニーズ対応―お客様の心の奥底に沈んでいる声にならないニーズへの対応。親子、夫婦、家族の関係・絆・らしさ、の復元・充足。
「諦めながら、諦めきれずに旅するお客様像」と「心の湖の底の宝石」。
 今、現代人は皆芭蕉のように“人生の旅”、“人生との接点”を求めている。それには思いやり・情け・人間誰もが持っている人間力(家族や恋人や友人に対しては自然に湧いてくる心や想い)が必要になってくる。
 
○消費の低迷、同質化競争、価格競争。多くを備え、多くを足して、お客様のたったひとつの重要なニーズ(祈りに似た願い)に無頓着。
―例として。
岩の湯は建物が山の傾斜地にあるため、どうしてもお部屋や食事処に行く際には階段を上ったり下りたりしなければなりません。エレベーターも厨房の中に内部動線用の小さいものしかありません。
ある時、足の悪いおじいちゃん夫婦と若いご夫婦の家族が来ました。おじいちゃんは旅で疲れたのか、「足が痛いので、食事を自分たちだけでも部屋に運んでくれ」と言います。「せっかくの家族の旅、皆さんご一緒に」とおすすめしても聞いてくれません。押し問答の末、半ば諦めかけた担当者は、事務所に戻ろうと階段を半分下りたところで、「いや、それでも」と思い、しかしおじいちゃんと話してもと思った担当者は、息子さんの部屋に行き、“おじいちゃんは、「もう足も痛いし、風呂も入らない。食事も自分たちだけでも部屋で」と言って「皆さまで」と言っても聞いてくれません”、と息子さんに言ったところ、「私が言います」と言ってくださり、息子さんがおじいちゃんを説得して、料亭で家族そろって召し上がっていただきました。翌朝は、一番にそのおじいちゃんが料亭にいらしてくださり、「お風呂も何回も入った」と話され、帰りにはラウンジにある池のところで家族写真をにこやかに撮って帰られました。
もし、お客様の言われた通りに、別々のお食事を用意していたら、このような旅にはならなかったのではないか。「ご家族で一緒に召し上がっていただきたい。何のために旅に出たのか。」と担当者が困りながら息子さんの元を訪ね、ご相談した結果、息子さんが動き、おじいちゃんの心に息子さんの想いが伝わった結果ではないでしょうか。

観光ではなく、リゾートでもなく、理想土

○復元・充足の舞台として
そもそも、「観光」「旅」というものは、社会や人生の“おまけ”なのか、それとも“必需品”なのだろうか。
食糧、エネルギーは必需品。旅は心の「必需品」となりうるのか。そこへ行けば、日常では満たし得ないささやかな夢、願いが満たされる、そういう癒しの場。
身体の傷や痛みには病院、医者や看護師が必要。心の傷や痛みには豪華さ、立派さ、便利さだけではない優しい空間と優しい人のいる「ふるさと」のような場所が必要。
文明の高度に発達した社会=大きなストレス社会。
ここ10数年で年間自殺者数は3万人を超えています。幸せに生きたい、しかし幸せに生きにくい時代。
社会や人生の必需品として、社会的自己治癒力として、復元・充足の舞台としての旅館には新しい大きな役割、機能があるのでは。
 
○モノづくりからコトづくりへ
―例として
これが最後の旅かもしれないという重病のお客様の「紅葉が見たかった」という一
言に、スタッフが9月の山を駆け回り、探してきた紅葉した葉を夕食のテーブルにそっと飾る。
洞窟風呂は昔、混浴=面白半分の風呂と見られがちで苦労したが、金婚式を迎えた夫婦が手をつなぎながら今までの人生を語り合えたり、新婚夫婦がこれからの未来を語り合ったりできる人生の風呂づくりを目指してきた。そして、新たに三世代の家族が、共に、楽しく心身を養う“楽養”というテーマを加えて深化してきています。
 
○おいしさの定義
モノ不足(お腹いっぱい食べること)→モノの充足(舌で食べること)→モノ余りと飽食の時代に求められるもの(心で食べる、物語、想い)。
何を食べてもそれなりにおいしいモノが当たり前に溢れている時代。何をもってしておいしいのか。天下の逸品も、一言も会話のない食事、喧嘩しながらの食事ではどうだろうか。

人と星といで湯のロマン

・価値観の共有
・素人のする一流サービス
・“たかが”を“されど”に

日々の実践上の課題

事務的、形式的、一般的であるということ、自己流、自己中、自己満足になりやすい、やる気のあるなしに振り回されてしまう。サービスという商品は人が扱うものであり、人にしか出来ないものだけに、砂上のガラス細工のようにもろくもある。だから、プロとして訓練し体質化する必要がある。

経営の根底にある問題

“他人の関係、水の関係、銭の関係”という本質的に冷たい関係。
家族なら血、恋人なら愛情、友人なら友情のように、結ぶものがない故に強い想いが持ちにくい。強い想いが持てないから気づけない、気づけないから今一歩の踏み込みができない。今一歩の踏み込みができないから顧客接点が生まれない。顧客接点が生まれないから、お客様は他を探し求める。 
このお客様と我々を結ぶものが経営理念であり、その経営理念をいかに共有化し、体質化していくのかが重要。
『理念の共有化のための仕組み』
 ・年3回のリトリートミーティング
 ・年10回の社内全体会議
 ・毎日の朝礼ミーティング

ミーティングのテーマと原則

・ 仙仁温泉の商品は『家族の絆』=『人生商品』。「親子の絆が深まっていい旅だった。」これが仙仁温泉の商品
・1つの商品を22時間の熟成という形を通して用意する。
・温泉(旅館)の商品基本構成要素(部品)は施設、環境、温泉、料理、サービス、快適性、安全性、価格である。
・サービスは、勝ったか負けたかで中間はない。中間は負けである。
・ 2:6:2の原則で6の曖昧な(普通の)部分は負けであるが、そこにこそ宝がある。6の部分を見い出すためには自己検証力を高めていく必要がある。各部署にミッションを持ち、お客様と接していく。
・ 5部署それぞれが同権で、“人は人のことはよくわかる”という利点を生かし、お互いのミッションに対し、健全な批判精神を発揮する。日々訓練することによって、お客様に対して心が動くようになる。『他人の関係、水の関係、銭の関係』では沈んだまま動かなかった“心の湖の底の宝石”が動くようになる。6の曖昧な部分が見えてくる。
・仙仁温泉では健全な批判精神の社風を非常に大事にしている。
・魅力ある商品を生み出すこと。人の心からしか生み出されないもの、深い思い、強い願い、こだわり、祈りを一人一人が商品にかけていき、お客様に提示していく。

“たかが”を“されど”に

・ “たかがサービス”“たかが温泉”“たかが料理”“たかが旅館”“たかが人生”“たかが仕事”を“されどサービス”“されど温泉”“されど料理”“されど旅館”“されど人生”“されど仕事”にしていく。旅はいいな、生きていてよかった・・・にしていく。
・“人と物と事”の関係に新しい関係“絆”“らしさ”を築き直していく。
・“人と星といで湯のロマン”は岩の湯の当初の経営理念である。この温泉で我々、何ができるのだろう。そんなことをみんなで楽しみにやっている。

高野塾長:
この1時間の中におもてなし未来塾の意味、生み出していくべきものについての、たくさんのヒントがあった。深い話を聞き、心の筋トレをした。